「マッスルスーツ」の試着会に潜入!(特別養護老人ホーム やすらぎミラージュ ・社会福祉法人章佑会)

2018年5月28日、特別養護老人ホーム やすらぎミラージュ(社会福祉法人・章佑会) で、マッスルスーツ(株式会社イノフィス)の試着会が行われました。
マッスルスーツとは、移乗介助などの際に腰にかかる負担を軽減してくれる腰補助用のロボットスーツです。
「やすらぎミラージュ」では、昨年の8月ごろから、介護職員の腰痛対策に力を入れているとのこと。機能訓練指導員である高山さんは、「これまでに、移乗ボードをはじめとした10種類以上の介護福祉機器のデモを行ってきた」と話します。
今回は、そんなやすらぎミラージュでのマッスルスーツ試着会に、介護ロボットONLINE編集部が潜入します。また、試着会の仕掛け人である高山さんに、成功するデモ・試着会の秘訣も伺いました!
<取材協力> 特別養護老人ホームやすらぎミラージュ (社会福祉法人章佑会) |
【16:30】マッスルスーツの試着会、開始!
試着会がスタート!
今回の試着会では、サイズ違いの2台のマッスルスーツが用意されました。まずは、メーカー担当者から簡単な会社説明・商品説明がされます。
はじめは「動画でしか見たことない」「重そう…」という反応がちらほら見られました。
しかし、「マッスルスーツを装着することで“できないことができるようになる”のではなく、“今できているが、たいへんなこと”が、今より楽にできるようになる」という説明をうけ、少しずつ興味をひかれていくのがわかります。
装着する様子を見守るスタッフの方々
その後、メーカー担当者が、マッスルスーツを装着する様子を実演します。「慣れれば10秒で装着できます」という説明に、驚きの声が上がりました。
装着する様子を見ながら、「足の部分に留め具がないのが楽そうで良いね」「歩きにくくないのかな」という反応が。「歩く場合は、太もものパッドをはずせば大丈夫です」と、メーカー担当者が一つ一つの疑問に丁寧に回答してくれました。
空気圧式の人工筋肉を使用しているため、力の緩急がつけられ、動きもなめらか
その後、マッスルスーツの仕組みなどの説明が行われます。
「ずっと装着しているというわけではなく、“この場面で使おう”と決めて運用したほうがうまくいく」「装着している人だけでなく、そのまわりの協力も必要」という説明も。実際の運用事例などをあげながら、具体的な使い方を紹介していきます。
効果は、実際に使って実感してもらうのが一番!ということで、さっそくスタッフの方々にも試着してもらいます。
【17:00】マッスルスーツを試着してみる
試着会スタート!
試着会では、高山さんから2点の案内がありました。
- 一人一回、かならず試着すること
- トイレ介助を想定して、介助者役、利用者役(被介助者役)の両方を試すこと
効果を実感するために、事前に10kg程度の重りを入れた箱が用意されています。装着した人は、箱の持ち上げと、トイレ介助を想定した移乗動作を行います。
移乗介助体験中。あちこちで「すごい!」と歓声があがる
「あるとないでは全然ちがう!」
重りを持ち上げるデモでは、違いが顕著にわかるのか、「おお!」と驚きの声があがっていました。「あるとないではぜんぜん違う!」「誰かが後ろからひっぱったのかと思った」など、みんな効果を実感しているようです。
施設長もマッスルスーツを体験。箱の中には10kgの重りが入っている
マッスルスーツを装着した状態、装着していない状態の両方で同じ重さの荷物を持ち上げると、とくに違いがわかるようでした。
「慣れるまでがたいへんそう」
一方で、トイレ介助を想定したデモでは、効果にぴんときていない人もちらほら。「まだ慣れないから違和感があるのかも」「着させられている感があって、効果を実感するまでいかない」「自分にあった装着位置や空気の分量をさがすまでが大変そう」という声も聞こえてきました。
ただし、被介護者役をした人の中には、違いを感じていた人も多かったようです。「最後のぐっとひかれる感じがなかったので、楽だった」「椅子に下ろすとき、余裕のある感じだった」という声が上がっていました。高山さんは、「スタッフはもちろん、利用者様にもどのような変化があるのか、被介助者役をやって感じるのはとても大切」と話します。
<ここがポイント!>
- 機器を試すときは、スタッフとしてだけでなく、利用者としてどのような変化があるかを体感する。
途中で夜勤のスタッフも参加。業務中のスタッフも、試着が終わった人と交代して参加していた
試着会開始時に集まったのは7名でしたが、その後、続々と参加する人が増え、最終的には計22名のスタッフがマッスルスーツを体験していました。
より多くの人が参加できるように、あらかじめ交代しつつ業務を回せるよう、アナウンスしていたのだそうです。
約1時間ほどの試着会を終えたあと、質疑応答に入ります。
【18:00】質疑応答
質疑応答では、試着した際に感じた疑問や運用を想定した疑問が多数あがりました。ここでは、そのうちのいくつかを紹介します。
Q. 壊れたりしないの?
A. これまでに約3300台出荷しているが、今のところ基本的な構造上の欠陥での故障はない。また、すでに30万回の耐久テストにパスしている。
Q. 濡れても使えるの?
A. 電力を使っていないので、濡れても使える。水を浴びても大丈夫。カバーは取り外して洗うことも可能。
Q. なぜ空気圧の強さを感覚に頼るのか?
A. オプションで、空気圧の強さが数値でわかるゲージをつけることもできる。しかし、一度自分の強さを覚えてしまえば、ゲージを見る必要はなくなる。
【18:30】試着会、無事終了
質疑応答を終え、無事試着会が終了しました。最後に感想を聞いてみると、「今すぐにでも使いたい!」という声が多数上がりました。
「まずは使って、効果を実感して、感動してほしい」という試着会の狙いは、大成功したようです。
「定年まで現役」を目指すやすらぎミラージュの取り組み
ここからは、今回の試着会の仕掛け人である高山さんに、試着会開催の秘訣を聞いていきます。
「やすらぎミラージュ」では、昨年8月からさまざまな機器の体験会や勉強会を行ってきたとのこと。スタッフを巻き込んだ試着会を成功させるには、どのような苦労や工夫があったのでしょうか。
<インタビュー協力> 施設長 平野修司氏 |
移乗介助の見直しからはじまった
ーーー昨年から職員の腰痛予防対策に力を入れているとのことですが、なにかきっかけがあったのでしょうか?
きっかけは、全介助が必要な大柄の男性利用者様が入所されたことです。これまで、当施設でフルリクライニング車いすを使用する全介助が必要だったのは、比較的小柄な方でした。
しかし、大柄の男性が入所されたことで、スタッフから「移乗介助がたいへんだ」という声があがるようになりました。それをうけて、スタッフはもちろん、被介助者であるご利用者様もより負担なく移乗できる方法を探し始めたのです。
約1年かかった意識変革
当時、当施設では腰痛予防に対する意識があまりなく、移乗介助する際もベッドの高さを変えないまま行うなど、さまざまな課題がありました。
そこで、まずは移乗ボードを導入し、腰痛予防を意識した介助をすすめていくことにしました。しかし、移乗ボードの良さは伝わっても、実際の業務ではなかなか使われない、ということが多発しました。その背景には、「これまで何の問題もなくできていたのだから、必要性を感じない」という思いがあったはずです。
そのため、まずは腰痛をもっているスタッフに紹介して、効果を実感してもらうことにしました。紹介してみると、「こんなものがあったんだ」という反応が多かったですね。現場で働くスタッフは、なかなか外からの情報がキャッチできないことも多いので、まずは知ってもらうことが大事なんだなと改めて感じました。
そこから約1年間かけて、少しずつ「安全で負担のない介護」の重要性をいっしょに勉強していき、ようやく意識がかわってきた、というところです。
<ここがポイント!>
- 課題を感じているスタッフからはじめる。
- 定着には時間がかかることを覚悟する。
試着会成功の秘訣
ーーーはじめから今日のように、みなさんが積極的に新しい機器を受けいれていたというわけではないんですね。今日の試着会には多くの方が参加されていましたが、開催前に高山さんの方で働きかけたことはあったのでしょうか?
今回の試着会は強制ではありませんが、勤務中のスタッフも参加できるように、交代制をとってもらいました。また、事前にマッスルスーツの簡単な説明やメリットを伝え、できるだけ多くの人に興味をもってもらうよう工夫しています。
<ここがポイント!>
- 事前に興味を持ってもらえる情報を伝えておく。
- 多くの人が参加できる体制を整える。
導入を決めるのは介護スタッフ
ーーーありがとうございます。今回の試着の様子をうけて、率直な感想を教えてください。
思ったよりよい反応だったので安心しましたね。私がよかったと感じたのと同じことを、みんなにも感じてもらえたと思います。
実際に導入するかどうかを決めるのは、スタッフからのヒアリングを行ったあとです。どのような場面でどう使うのか、具体的にイメージしたうえで判断します。
おむつ交換のシーンで使うとしても、いきなりすべての時間帯で使えるというわけではありません。まずは比較的余裕のある時間帯から取り入れる必要がありますし、その際の業務の流れも変更しなければいけなくなるでしょう。
私が行っているのは、あくまでも「きかっけづくり」です。実際に使用するのは、現場で働く介護スタッフ。だからこそ、導入の判断は介護スタッフといっしょに決めます。
<ここがポイント!>
- 試着会後のスタッフのヒアリングはかならず行う。
- 具体的な運用方法に落とし込んでから検討する。
定年まで現役で働いてもらいたい
時代の流れとともに、介護のあり方も変化してきています。「痛いのも重いのも我慢する」というやり方から、「道具を活用して負担を軽減する」というやり方にシフトしてきました。
これまでのやり方を続けていけば、今は若くて腰痛を感じていなくても、数年後には腰痛を発症して、働けなくなってしまうかもしれません。
この人手不足の時代に、そうなるのはあまりにももったいない。「定年まで現役で働いてもらいたい」というのが、当施設の願いです。これからは、数十年後をみすえた、新しい介護方法を模索していく必要があると考えています。
メーカーによる導入計画の支援も
盛況を博した今回のマッスルスーツ試着会。メーカーであるイノフィスでは、導入計画の支援も行っています。メーカー担当者は、「導入して終わりではなく、使いこなしてもらうのが目的。1年後に“導入してよかった”と思っていただけるよう、継続的に支援していく」と話します。
助成金や補助金の案内も随時行っているため、気になる施設はぜひ一度相談してみてはいかがでしょうか。
<施設情報> 特別養護老人ホーム やすらぎミラージュ (社会福祉法人章佑会) *マッスルスーツのお問い合わせはイノフィスHPから |
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