増加する介護離職の実態と、介護と仕事を両立するためにできる3つのこと

増加する介護離職の実態と、介護と仕事を両立するためにできる3つのこと

「家族を介護するには、仕事を辞めるしかない」ーーー介護のために会社を辞める「介護離職」が今、問題になっています。

現在、働きながら介護をしている人は291万人に達し、そのうち約10万人が介護のために会社や仕事を辞めているといわれています。

介護離職する人の多くは、40~50代の役員や従業員。こうした働き盛りのミドルクラスが離職してしまうと、企業としても大きな損失となります。さらに離職して収入源を断たれた介護者が生活保護を受けたり、精神的に追い込まれてうつ病になったり殺人事件に発展したりする事例もあるため、社会問題となっているのです。

ここでは、介護離職しようか悩んでいる人に向けて、

  • 介護離職を取り巻く環境や状況 
  • 介護離職の問題点
  • 再就職できるのか

介護離職しなくても済む方法などをまとめます。

介護離職の現状と実態

介護離職とは、家族を介護するために勤務先を辞め、介護に専念することをさします。まずは、介護離職を取り巻く環境や状況を簡単に確認していきましょう。

1年間で10万人が介護離職!

総務省の調査によれば、2011年から2012年の1年間で介護離職した人は、約10万人と報告されています。会社に介護していることを報告していない「隠れ介護」の人もいることを考慮すると、実際の介護離職者はもっと多いと考えられるでしょう。

男性の介護離職者も2万人超え

介護離職者はいずれの年も女性の方が多いですが、男性の介護離職者も着実に増えてきています。2009年には、男性の離職者数が2万人を超えました。
介護・看護を理由に離職した15歳以上の人口、男性の介護離職者は2万人超え
この背景には、「家族の介護は嫁がするもの」という考え方が薄れ、自分の両親を自ら介護する人が増えたことや、未婚率の上昇とともに自ら介護せざるを得ない独身男性が増えたことなどがあります。

介護離職した人の半数以上が「仕事続けたかった」

男女ともに増加傾向を見せる介護離職。しかし、誰もが望んで介護離職したわけではありません。
介護離職した人の半数以上が「仕事続けたかった」と回答、アンケート調査で判明
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が行ったアンケート調査では、介護離職した人の5割以上が仕事を「続けたかった」と回答していることが分かっています。つまり、男女ともに半数以上の人が介護のために「やむを得ず」離職という選択をしているのです。

介護離職者の半数以上が「介護と仕事の両立がむずかしい」

なぜ多くの人は仕事を続けたいと思っているにも関わらず、介護離職を選ぶのでしょうか? アンケート調査によれば、介護離職者が介護離職した理由の6割以上が、「介護と仕事の両立が難しいため」と答えています。
介護離職を決めた理由は介護と仕事の両立がむずかしい」が最多
その中には、「出社や退社の時刻を自分の都合で変えられない」「労働時間が長い」といった時間の融通に関する理由や、「会社や上司から理解を得られない」「有給や介護休業が取得しづらい」といった理由、また「体力的に限界だ」といった身体的負担に関する理由も含まれるでしょう。

ある調査では、介護時間が平日2時間、休日で5時間を超えると、仕事との両立が難しくなると指摘しています。

4割以上が介護開始から1年以内に介護離職している

また、介護開始から介護離職までの期間でもっとも多いのが「1年以内」であることも分かっています。
介護開始から介護離職までに期間でもっとも多いのが「1年以内」
未体験の介護が突然始まり、それに振り回される日々の中で仕事との両立の難しさを痛感し、疲弊したり、いったんリセットを求めたりした結果、「仕事を続けたい」とは思いつつも「介護離職」という選択をしてしまう姿が浮かび上がってきそうです。

介護離職はしないほうがいい?介護離職後のリアル

ここまで、介護離職の現状や介護離職せざるを得ない状況を見てきました。次に気になるのが、介護離職をした後のことです。介護離職をして介護に専念した後に待ち構えているのは、どのような環境なのでしょうか?

「介護離職をすると負担が減る」は嘘

介護離職をすると仕事をせずに済むので、離職する前よりも負担が軽くなるというイメージがあります。しかし実際は、負担が減るどころか増すことのほうが多い実態が、アンケート調査から明らかになりました。
離職後に 「負担が増した」と回答した人は全体の半数超え
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社によるアンケート調査によれば、離職後に 「負担が増した」と回答した人は全体の半数を超えており、経済的負担はもちろん、肉体面・精神面でも負担が増していることが分かっています。

もっとも負担が増すのは「経済面」

なかでも、もっとも「負担が増した」と感じられているのが経済面です。当然のことながら、会社を辞めると収入源が断たれるため、経済的負担は増します。また、介護保険で受けられるサービスも無料ではないので、その点も考慮した上で経済的な見通しを立てる必要があります。

精神的・肉体的負担もアップ

経済的な不安は精神的な負担にもなるので、精神面での負担が増すのも自然です。また離職すると会社という社会的なつながりを失うので、孤立感を深めるケースもあるでしょう。

では、肉体的な負担が増えるのはなぜなのでしょうか?肉体面での負担が増したと回答しているのは全体の56.6%。半数以上が離職後も負担が増えたと感じています。

この理由について、『介護離職しない、させない』(毎日新聞出版)の著書である和氣美枝氏は、以下のように説明しています。

離職をすると時間ができるので、介護だけでなく家事なども気になってやり始めます。なんといっても仕事をしていないので、時間があるように感じてしまうわけです。一方で収入がなくなるので、介護サービスの利用(介護保険の介護サービスも無料ではなく、かかる費用の1割ないし2割を自己負担しなければなりません)も控えがちで、身体介護から見守りまで24時間態勢の介護をまるで介護従事者のようにやってしまう。よって、肉体面の負担も増えてくるのです。

引用元氣美枝 (2016)『介護離職しない、させない』(毎日新聞出版)

つまり「仕事さえ辞めれば、今の負担は軽くなるはずだ」という考え方は、必ずしも正しいわけではないということです。

再就職は予想以上に難しい?

介護を全うしたあとは、再就職して働き出したいと考えている人も少なくないでしょう。なかには、介護がある程度落ち着いたら、介護と仕事が両立できるような就職先を見つけようと考えている人もいるかもしれません。
介護離職後の正社員での再就職率は49.8%
介護離職後の正社員での再就職率は49.8%をマークしており、決して低くはありません。ただし、仕事を「続けたかった」と回答した人が男性で56%、女性で55.7%であることを考えると、仕事を続けたいと考えていたすべての人が再就職できているわけではないといえるでしょう。

仕事と介護の両立は本当に可能なのか?介護離職せずにすむ方法

介護離職は、必ずしも介護する生活の負担を減らしてくれるものではないことがわかりました。経済的な見通しがついていなければ精神的な負担を増長させますし、希望する条件で再就職できる保証もありません。

「親の介護に専念したい」「感謝の気持ちを返したい」という積極的な理由で離職を決めたのであれば問題ありませんが、「辞めるしかない」という消極的な気持ちで介護離職を選ぶのは、必ずしも賢明な判断とはいえないでしょう。

とはいえ、ただやみくもに介護も仕事も両方頑張ればよい、というわけではありません。無理のない範囲で介護と仕事を両立するためには、知恵や工夫が不可欠です。

次からは、介護と仕事を両立させるための制度やアドバイスをまとめます。

介護保険サービスを活用しよう

介護と仕事を両立するのに不可欠なのは、「できるだけ自分で介護をしすぎない」ことです。介護をすべて自分で行うと、時間はもちろん体力もかなり消耗し、人によっては「介護うつ」状態に陥りかねません。

介護には明確なゴールや期限があるわけではないので、想像以上に長期戦になったり、先が見えない気分になったりすることもあります。長い目で考えても、自分ひとりで介護するのではなく、介護サービスを活用して周囲にサポートを求めましょう。ここでは、主に「介護保険で受けられるサービス」について説明します。

介護保険で受けられるサービス

介護保険料を納付している40歳以上の要介護者は、自己負担1~3割で介護保険サービスを受けることができます介護保険サービスにはさまざまな種類があります。

訪問系サービス 要介護者が施設に通い、食事や入浴、リハビリなどのサービスをうけるもの
短期入所系サービス 要介護者が短期間施設に入所し、 食事や入浴、リハビリなどのサービスをうけるもの 
施設系サービス 要介護者が施設に入居し、生活上の介護サービスや医療サービスをうけるもの

この他にも、福祉用具の購入・レンタルや住宅改修を自己負担1~3割でできるサービスもあります。最近では、自動排泄処理装置などの介護ロボットもレンタル対象になってきています。
仕事と介護を両立している人は、こうした介護保険サービスをうまく活用しているのです。次からは、介護保険サービスを受けるまでの流れを解説します。

1.要介護認定を受ける

こうした介護保険サービスを受けるには、「要介護認定」を受ける必要があります。「要介護認定」とは、「この人は介護が必要な状態です」という公式な認定のことです。

要介護認定の申請は市町村の担当課で受け付けています。手続きは、家族だけでなく居宅介護支援事業者などが代行することも可能です。

申請場所 市町村
手続きする人 本人、家族、居宅介護支援事業者等
必要なもの 市町村が用意している「要介護認定申請書」、介護保険の被保険者証

2.ケアマネジャーとプランを作る

要介護認定を受ければ、介護保険サービスを利用することができます。どのようなサービスをどのように受けるかは、ケアマネジャーという役職の人と相談しながら決めます。たとえば、「在宅での介護希望か、施設入所での介護希望か」といった介護の希望や、「残業が多い仕事か、出張が多い仕事か」といった働き方に合わせたプランを一緒に作っていきます。ケアプランが完成したら、サービスの提供が開始されます。

介護休業・介護休暇を活用しよう

要介護者の状態によっては、要介護認定やケアプラン作成などに家族が付き添わなくてはならない場合もあるでしょう。付き添いのために、遅刻や早退、欠勤などをする場面も出てくるはずです。

そんなときに使えるのが「介護休業・介護休暇」です。

介護休業なら賃金の67%が支給される

介護休業とは、要介護状態になった家族の介護やその他の世話のために、一定期間以上の休業を取得できる制度のこと。パートやアルバイトの人でも取得できます。通算で93日間まで取得でき、最大3回に分割することが可能です。

休業中も賃金の67%が支給されるので、経済的にも負担が軽い方法です。

介護休暇は事前の申出不要

介護休暇とは、要介護状態にある家族の介護やその他の世話を行うために、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)までの休暇が取得できる制度のこと。パートやアルバイトの人でも取得できます。

介護休業と違って事前の申し出が不要なので、「どうしても今すぐ休まなくてはいけなくなってしまった!」というときにも使えます。また半日からの取得が可能なので、午前に介護関連の用事を済ませて午後から出社するという使い方もできます。

会社に介護していることをカミングアウトしよう

介護休業や介護休暇を取得するには、会社に「家族を介護していること」を報告する必要があります。また仮にそうした制度を活用しないとしても、会社にカミングアウトするほうがより「負担のない介護」を実現しやすくなるでしょう。

介護をしていると、どうしても関係各所から連絡や呼び出しが頻繁に入りますが、介護のことを上司や周囲に伝えていないと、「就業中なのに私用電話が多い」などという評価をされてしまう恐れがあります。また単に「隠している」という事実自体がストレスになることもあります。ただでさえストレスの多い介護を仕事と両立していくには、会社の理解や協力が不可欠になってくるのです。

介護と仕事を両立している人はたくさんいる

ここまで、介護離職の問題点や介護離職しなくても済む方法を解説してきました。

突然始まった介護に戸惑っている人の中には、「どう頑張っても両立なんてできっこない」「もう会社を辞めるしか方法はない」と思い詰めている人もいるかもしれません。しかし、介護保険サービスや介護休業などの制度をうまく活用し、介護と仕事を両立している人は実際にいます。

厚生労働省が発行しているパンフレット『 仕事と介護 両立のポイント 』や、今回紹介した『介護離職 しない、させない』(和氣美枝・毎日新聞出版)でも、介護と仕事を両立させている人々の実例が多数掲載されています。

介護について悩んだら、まずは相談窓口で相談してみましょう。相談窓口は、市町村の役所や地域包括支援センター、居宅介護支援事業所などにたくさんあります。

介護離職する場合は、メリットとデメリットをしっかりと把握したうえで決断することをおすすめします。

<参考資料>

総務省(平成25年7月)「平成24年就業構造基本調査 」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(調査実施時期2013年1月)「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」

明治安田生活福祉研究所とダイヤ財団共同調査(2014年11月)「仕事と介護の両立と介護離職」

和氣美枝 (2016)『介護離職しない、させない』(毎日新聞出版)

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