なぜ「活動」に着目?意外な結果から分かったコミュニケーションロボットの可能性【第2回】

なぜ「活動」に着目?意外な結果から分かったコミュニケーションロボットの可能性【第2回】

本邦初の画期的な実証試験により、対象者の約3分の1に改善が認められたコミュニケーションロボット。

今回の実証試験で改善の指標となったのは、「活動」です。ここで言う「活動」とは、「内容豊かな生きがいある生活を送るために必要なさまざまな生活行為」を指します。

「介護分野におけるコミュニケーションロボットの活用に関する大規模実証試験」を担当した産業技術総合研究所招聘研究員の大川弥生氏は、「介護ロボットを通じて、”介護はどうあるべきか”という問題まで論じることができる」と話します。

いったいどういうことなのでしょうか?シリーズ第2弾では、大川氏に疑問をぶつけるとともに、実証試験の結果をさらに掘り下げます

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なぜ「活動」に着目したのか?

そもそも、コミュニケーションロボットなのに、なぜ「活動」に着目したのでしょうか?

大川氏は、「介護とは不自由な生活行為があるから行われる。介護ロボットの介入によって、その不自由な生活行為がどのように変わるかを見るべきだ」と説明します。

介護に対する考え方は、ICIDH(国際障害分類)からICF(国際生活機能分類)への改訂で大きく変化しました。ICF(国際生活機能分類)における「介護」は、従来の「障害の補完」という考えではなく、生きることをよくするために行われるものという考えによっています。

「生きることをよくするため」には、「生きること」を俯瞰的にとらえる必要があります。その全体像をとらえるために、ICFの「生活機能モデル」が使われます。そのモデルの生活機能という概念は、「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルに区分されます。

今回実証試験で評価した「活動」は、3つのレベルのうちのひとつです。「活動」には、全ての生活行為を含みます。介護は、不自由な生活行為、すなわち「活動」を手伝うだけでなく、それをよくすることもできると考えられます。

ICF(国際生活機能分類)における「介護」の考え方

そのため、介護ロボットの介入によって、「活動」がどれだけ良くなったか(不自由な生活行為がどのように変わったか)を評価することが、真に介護ロボットの効果を検証することにつながるのです。

「セルフケア」と「運動・移動」の改善が意味すること

セルフケアの改善は「予想外」

”コミュニケーションロボット”という名称で、メーカー側もコミュニケーションやレクリエーションを目的として開発していることを考えれば、当然「コミュニケーション」が改善されると予想します。

しかし実際には、「コミュニケーション」よりも「セルフケア」という活動項目がもっとも高い改善率を示しました。この結果は、大川氏にとっても「予想外なことだった」と話します。

活動項目別改善率

実証試験結果の詳細

今回の実証試験では、(1)活動の質(=自立度)と(2)量(=活発さ)の両面でコミュニケーションロボットの効果測定が行われました。

(1)活動の質を評価するうえでは、ICFの活動項目が用いられました。今回評価対象となった活動項目(大項目)は表のとおりです(※1)。

第3章 コミュニケーション communication
第4章 運動・移動 mobility
第5章 セルフケア self-care
第6章 家庭生活 domestic life 
第7章 対人関係 interpersonal interactions and relationships 
第8章 主要な生活領域 major life areas 
第9章 コミュニティライフ・社会生活・市民生活 community, social and civic life 

※1 WHO(2001年)「国際生活機能分類 大項目:3-9章」より

コミュニケーションロボットは、(1)状態検知対応型、(2)環境・操作反応型、(3)介護者代替プログラム実施型の3つに分けられ、それぞれで効果測定がなされました。

コミュニケーションロボット,状態検知対応型,環境・操作反応型,介護者代替プログラム実施型

状態検知対応型

  • 被介護者の状態を検知して、それに応じた反応を返すコミュニケーションロボット。
  • 被介護者が30分以上座った状態であることを検知すると、「部屋の外に行きませんか」などと声がけをするものがこのタイプに該当。

環境・操作反応型

  • ロボットへの操作や周囲の環境に応じて反応を返すコミュニケーションロボット。
  • 被介護者がロボットに触ると、触った場所や強さに応じて声がけをするものなどがこのタイプに該当。

介護者代替プログラム実施型

  • 通常、介護者が行う被介護者への働きかけを代わりに行うコミュニケーションロボット。
  • プログラムに沿って体操指導やクイズなどのレクリエーションを進行するものがこのタイプに該当。 それぞれの結果は以下のとおりです。

状態検知対応型

状態検知対応型のイラスト

状態検知対応型では、コミュニケーションを抑えて「セルフケア」がもっとも高い改善率を示しました。次いで「運動・移動」「社会生活等」が続きます。

環境・操作反応型

環境・操作反応型のイラスト

環境・操作反応型でも、セルフケアがもっとも高い改善率をマークしました。次いで「対人関係」「運動・移動」が続き、4番目に「コミュニケーション」が来ています。

介護者代替プログラム実施型

介護者代替プログラム実施型のイラスト

介護者代替プログラム実施型は、「社会生活等」にて高い改善率が見られました。ちなみに「社会生活等」の中には、「レクリエーションとレジャー」「地域生活」などが含まれます。そのあとに「セルフケア」「運動・移動」が続きます。

「セルフケア」「運動・移動」の改善が与えるインパクト

本来想定されていた「コミュニケーション」よりも高い改善率を示した「セルフケア」や「運動・移動」の活動項目。

大川氏は、「活動項目のなかでも「セルフケア」や「運動・移動」に効果が見られたことは、非常に大きな意義がある」と述べています。なぜでしょうか?

大川氏はその理由として、「「セルフケア」や「運動・移動」は、介護のなかでも頻回な活動であり、ここが改善されると、介護全体にかなりのインパクトがある」と説明します。

「セルフケア」には、食べることや飲むこと、排泄などの基本的な行為に加え、入浴、歯磨きや洗顔などの身支度、自ら健康に注意することまで含まれます。

大川氏が「「セルフケア」項目にある「排泄・入浴・食事」は三大介助と呼ばれており、人間として生きるためにもっとも重要な活動」と述べるとおり、「セルフケア」は基本的な生活を送るために不可欠な活動項目なのです。

「運動・移動」は、歩行や車いすなどの手段を利用した移動はもちろん、姿勢の保持や物の移動まで含まれます。とくに移動のための移乗介助は、介護業務の中でもかなり頻回に発生する業務です。

これらが改善されることで、自立度が上がるだけでなく、介護従事者の負担も大幅に軽減されることが予測されるのです。

セルフケアの改善は介護報酬にも直結

「セルフケア」の改善は、介護報酬にも直結すると大川氏は説明します。「セルフケア」などの活動項目改善により自分でできる活動が増えれば、介護報酬の加算を減らせる可能性があるからです。

2025年問題を前に社会保障費のの急増が懸念されている今、コミュニケーションロボットによる介護報酬への影響はより重要視されていくでしょう。

また、今後の介護報酬改定では、自立度の向上(要介護度の低下)によって介護報酬を加算する案も出ており、改善に向けた介護がますます盛んになっていくと予想されるなかで、介護ロボットの介護予防効果にも期待が高まります。

コミュニケーションロボットの可能性

今後もさらなる改善が見込める

予想外の結果となった今回の実証試験。大川氏は、「当初に意図していなかったと考えられる「セルフケア」などの改善を生む可能性をもつことが判明したことの意義は大きい」と述べます。

今回の実証試験では、当初から「セルフケア」「運動・移動」の向上を目的としていたロボットは1種類のみでした。それらのの向上を想定した活用方法をしていなかったにもかかわらず全体の30%以上に効果が見られたということは、今後それらを意識した開発や活用法の模索を勧めることで、さらに大きな改善効果が見込める可能性があるということです。

コミュニケーションロボットの多くは、本来の目的や効果(=コミュニケーションの向上)以上に、広い範囲で効果をあげることができるものだということが分かっただけでも、大きな成果だと言えるでしょう。

重要なのは介護プログラムへの落とし込み

もっとも、コミュニケーションロボット単体では、このような結果は出ません。大川氏は報告書の中で、「最大限の効果をあげるためにはロボットの直接的な使い方だけでなく、介護プログラムの中に位置づけて、具体的活用法を明確にすることが重要である」と指摘します。

例えば、実証試験に参加したある施設では、ロボットの「促し」によって居室外に出た利用者が実施できる「活動項目」や「生活の活発化」を増やすために、デイルームに本・雑誌を設置したり、ビデオやお茶道具をを自由に利用できるようにしています。

こうした介護プログラムの見直しを行った施設(代表機関A)と行っていない施設(代表機関F)では、改善率に大きな差が出ました。

代表機関による改善率の違い

これにより、コミュニケーションロボットの効果を引き出すには、介護プログラムのなかへの落とし込みが重要であることが明白となりました。

まとめ

「活動」に焦点をあてて行われた今回の実証試験。結果として、本来想定されていた「コミュニケーション」の改善以上に、「セルフケア」「運動・移動」などの活動項目に改善が見られました。

要介護者の自立や介護業務、さらに介護報酬にまで影響を与えるこれらの改善効果は、今後の開発や活用法の模索によってさらに高めることができそうです

もっとも、介護ロボットがそれらの活動項目に特化していればいい、性能が高ければ良いというわけではありません。そうしたコミュニケーションロボットをいかに介護プログラムに落とし込むかが、効果を引き出す鍵と言えます。

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・国立研究開発法人 産業技術総合研究所「介護分野におけるコミュニケーションロボットの活用に関する大規模実証試験報告書」(2017年5月31日)