人工筋肉で介護の腰痛問題を解決!マッスルスーツ| 株式会社イノフィス

介護ロボットONLINE編集部介護ロボットONLINE編集部

作成日2017/06/09 更新日2018/03/276,090views

自立支援から作業支援へ


ーーーよろしくお願いします。御社は東京理科大学発のベンチャー企業ですね。

null  今回お話を伺った株式会社イノフィス COOの横幕才氏

はい。2001年から、東京理科大学の小林宏教授が、ウェアラブル型ロボットの研究・開発を開始しました。2013年に腰補助用マッスルスーツの実用化に成功し、それを販売するためにイノフィスを創業しました。

開発当初は、障害を持っている方が自立した生活ができるよう、自立支援を目的とした機器を開発していました。プロトタイプを作って検証を続けていくにつれ、腰を使って作業を行う健常者も大きな問題を抱えていることに気づきました。

その一つが、腰痛という問題です。実際、介護の現場では腰痛で職を離れざるを得ない職員が沢山いらっしゃるそうです。また介護の現場だけでなく、腰を使う作業はあらゆる業種、分野に存在します。そこで、まず先に、健常者に対する作業支援用の製品を開発するべく方向転換しました。それが2006年ごろのことです。

2013年にマッスルスーツを実用化してから、プロフェッショナル向け商品として販売しています。

スーパーマンにはなれない?マッスルスーツは腰痛予防デバイス


ちなみに、これまでにマッスルスーツを装着したことはありますか?

ーーーいえ、ありません。

マッスルスーツにどんなイメージを持っていますか?

ーーー装着すると、自分の力が倍増するというようなイメージです。

マッスルという言葉からも、自分がマッチョになれるとか、スーパーマンみたいになれるとか思いがちですよね。しかし、実は全く違うのです。その点を、これからご説明していきます。

ーーーお願いします!

マッスルスーツは何かというと、あくまで腰を補助するための製品だということを、まずはご理解いただきたいと思います。長期的に腰に負荷がかかるような仕事をされている方に対して、腰にかかる負担を軽減することで腰痛を予防してもらう。一言で言えば、人工筋肉を使った腰痛予防のためのデバイスなのです。

ーーーじゃあ、力を増大させるためのものではないのですか?

あくまでも腰補助という位置づけなので、マッスルスーツを使っても、自分の力で持ち上げられるもの以上のものは持ち上げられません。ただし、自分の力で持ち上げられるものでも、持ち上げるときには必ず腰に負担がかかりますよね。それをサポートしてあげようというのが、マッスルスーツなのです。

人工筋肉だからできることとは?

マッスルスーツのメリットは三つ。一つ目は、先ほどから申し上げているとおり「腰の負担軽減」です。二つ目は、作業をスムースに補助できるという点です。人工筋肉だからこそ実現できるスムースさが特徴なのです。

ーーー人工筋肉って何なのでしょうか。

マッスルスーツで用いている人工筋肉は、空気圧を供給すると非常に大きな力で収縮するMcKibben型人工筋肉と呼ばれるものです。人間の筋肉は、伸縮することで力を出したり緩めたりしますよね。それと同じことを、空気を出し入れしてゴムの伸縮で再現しているというイメージです。

通常、マッスルスーツのような製品にはモーターが使われていますよね。モーターの場合はセンサーの読み間違いによる誤作動などが懸念されますが、その点はいかがですか?

人工筋肉の場合、必ず自分の動きに追随するため、誤作動や不自然な動きをすることがありません。人工筋肉の良さは他にもあります。軽量ですし、電気部品を使っていないため防爆性が必要な環境でも安心して使用できます。

三つ目の特徴は、装着が簡単にできるという点です。人工筋肉を用いているマッスルスーツであれば、慣れると10秒ほどで装着が可能です。


登山用ザックのような形状で、素早い装着が可能

基本的な構造をご説明します。マッスルスーツの真ん中に人工筋肉があり、アルミのフレームがそれを覆っています。人工筋肉と腰関節部がワイヤーでつながり、さらに下のももパッドにつながっています。ももパッドを起点にして、体が起こされるような作りです。装着時はリュックサックを背負うように担いで、ももパッドと腰ベルトをつけ、肩ベルトと胸ベルトを調整します。すごく簡単です。

ーーー3種類展開されていますね。

標準モデル軽補助モデル、そしてスタンドアローンという独立型のモデルがあります。

標準モデルは人工筋肉が4本使われており、もっとも強い35kgfの補助力があります。ここでいう補助力とは、腰にかかる負担を補助する補助力を指しています。

本来、人工筋肉は1本で約200kgfという非常に大きな収縮力を出すことが可能です。しかし、自分で持てる重さ以上のものを作っても意味がありません。ですので、一般人が持てる重さを補助するのに適当と思われる補助力である、35kgfに設計している訳です。

軽補助モデルは、女性・シニア層にむけて軽量化したものです。標準モデルより約2kg軽く、その分人工筋肉を2本に減らしています。補助力は25kgfです。

これら二つのモデルは、コンプレッサーまたはタンクのいずれかを用いて、人工筋肉に空気を注入します。コンプレッサー式は回数の制限がありませんが、コードでつながっているため、行動範囲が限られます。一方タンク式の場合、行動範囲は広がりますが、使える回数に限りがあります。作業シーンに合わせて、どちらを選ぶかを決めていだきます。

スタンドアローン型は、コンプレッサーやタンクが一切不要なタイプです。空気を事前に充填することで、外部供給を不要にしました。あらかじめ人工筋肉をパンパンに張らせておいて、ももパッドが反発するバネのような力を利用して補助力を発生させます。

実際にスタンドアローンを装着したところ。尾てい骨に密着させるため、肩に負担がかからない

強い安定感のあるタイトフィットと、ももパッドと脚の間に遊びをもたせて歩行を楽にできるよう設計したソフトフィットの2タイプがあります。

腰痛は国民病!マッスルスーツがもたらす真のメリット

ーーー実際、どれくらい腰の負担が軽減されるのでしょうか?

筋電位を測定した結果、荷物を持ち上げる際の腰に対する負担が35%軽減されたというデータが出ています。荷物を降ろす時の負担に関しては、約6割も軽減されます。

ーーー腰痛予防のためのデバイスということは分かりましたが、200kgfの力が出せるのに、35kgfにとどめているのはもったいないような気もします。


そこがまさに、皆様にぜひ理解していただきたい部分です。というのも、そこを理解していただかないと、マッスルスーツの良さが正しく伝わらず、せっかく導入したのに使われなくなってしまうという事態につながりかねないからです。

マッスルスーツの導入は、スーパーマンになるためではなく、腰痛予防をして労働環境を改善しましょうという提案なのです。例えば、「半年間使い続けたら、腰痛で休む人がゼロになりました」というところまでもっていくことが、導入の真の目的です。だからこそ、作業で使用する方々と、導入する経営側双方の理解がないと、絶対にうまくいかないのです。

ーーー長期的、習慣的な使用が前提ということですね。そもそもなぜそこまで腰痛を問題視されているのでしょうか?

腰痛は、日本の国民病なのです。厚生労働省のデータによると、日本人の4人に1人が腰痛を抱えていることが分かっています。(※1)そのうち、原因が分かっているのはわずか15%で、腰痛の8割以上は原因不明です。(※2)原因不明ということは、すなわち治療が困難ということです。一度腰痛になると治しづらいし、しかも完治するのはたったの10%と言われています。

腰痛は、単に痛いというだけにとどまらず、精神的リスクや経済的負担という問題にもつながります。例えば腰痛の治療費や入院費として、平均13万円かかるとされています。また治すためには、約22日間の在院が必要です。(※3)

ーーー当人も大変ですが、そんなに仕事を休まれては会社としても困りますね。

その通りです。精神的リスクとしては、腰痛によるストレスももちろんのこと、うつ病になりやすいというデータもあります。

ある調査によれば、持上げ作業や中腰姿勢・同じ姿勢を続けることが、腰痛を引き起こす原因の半分を占めていることが分かっています。(※4)つまり、誰もが腰痛になる危険性があるということです。だからこそ、たとえ健康体であっても、今からの予防が大事なのです。使っていただく皆様には、「腰痛は他人ごとではなく、自分にも起こるリスクがある」、「自分の身は自分で守る」という意識を持っていただきたいのです。

ーーー経営側としても、腰痛による休職を防ぐという点で、メリットがありそうですね。

休職だけではありません。腰痛になると生産性が落ちますし、ひいては退職してしまう方もおられます。腰痛を防ぐという職場環境の改善は、従業員の定着率を向上させ、労災を防ぎ、企業イメージをアップするための重要な経営課題です。

ーーー使用者と経営側双方の理解があって初めて、持続的な使用につながるという意味がよく分かりました。

当社としては、マッスルスーツを工事現場のヘルメットのように使っていただければと考えています。この仕事をするときはマッスルスーツを使いましょうという安全基準やルールを決めて、習慣的に使い続けるのが当たり前になって初めて、本当の普及が始まるのではないでしょうか。

マッスルスーツの広がりと今後の展開

ーーー御社の製品は、介護以外の分野でも活用できそうです。

マッスルスーツは介護ロボットとしての印象が強いかもしれませんが、腰補助という観点で考えるとあらゆる分野で使っていただけます。例えば面白いところでは、カツオの一本釣り組合さんからお問合わせがあったりしましたね。毎日、私たちが想像もしていなかったようなところからお問合せをいただき、こちらとしても驚くほどです。

ーーー現在のマッスルスーツは健常者の作業支援という性格が強いですが、自立支援ロボットとしての展開は考えていないのでしょうか?

はじめに申し上げていたとおり、もともとは障害を持っている方の自立生活を実現したいという想いから、開発がスタートしています。よって今後は、自立支援も含めた製品の多様化、ポートフォリオの拡大を進めていくつもりです。現在は企業に向けて販売していますが、これからは一般向けの商品も作っていきたいです。病院や施設でのリハビリ利用、自立歩行支援はもちろん、老老介護の現場や在宅でも使っていただけるように、幅広い活動を行っていきます。

ーーー介護ロボット業界は盛り上がりを見せている反面、誤解やネガティブイメージを抱えている職員の方もいらっしゃいますよね。

介護の分野においては、人の手でないとできない部分が確かにあると思っています。すべての作業がロボットに取って代わることはないでしょう。だからこそ、人を支援するためのロボットが必要になるはずです。介護現場で働いている皆様が、ご自身の身を守りながら長く元気に働いていただくことがとても重要だと思っております。

編集部まとめ

取材後、実際にスタンドアローンを装着し、20キロの荷物を持ち上げてみました。腕の力は使うものの、腰にはさほど負担がかかっていないように感じます。しかしスタンドアローンを外して再度持ち上げようとしてみたら、あまりの違いに驚きました。マッスルスーツが、いかに腰を補助してくれていたのか、体で実感することができました。

「マッスルスーツ」「人工筋肉」という響きから、装着すればパワーが増大するのではないかという期待は、「職場環境の改善」という本当のメリットを前に良い意味で裏切られました。介護ロボットが真に普及・定着するためには、「なぜそれを使う必要があるのか」を理解する必要があると痛感します。

※1 参考:厚生労働省(平成22年度国民生活基礎調査)
※2 参考:Deyo RA et al : What ca the history and physical examination tell us about low back pain? JAMA 268: 760-765, 1992
※3 参考:厚生労働省「医療給付実態調査 平成23年度」、「患者調査 平成23年」、総務省統計局「人口推計 平成23年度」
※4 参考:腰痛に関する全国調査報告書2003年

標準モデル(タンクタイプ・外部供給タイプ)
名称腰補助用マッスルスーツ
寸法Fサイズ:幅50cm x 高さ90cm x 奥行き22cm
Sサイズ:幅45cm x 高さ81cm x 奥行き20cm
重量本体:6.6kg(基本的な本体構成部のみ)
高圧タンク:1.5kg(1.5リットル)(タンクタイプのみ)
アシスト力最大35.7kgf(140Nm)
アシスト部位腰、脚(腰を落として持ち上げる場合)
希望小売価格600,000円(税別)

軽補助モデル(タンクタイプ・外部供給タイプ)
名称軽補助モデル
寸法Fサイズ:幅50cm x 高さ90cm x 奥行き22cm
Sサイズ:幅45cm x 高さ81cm x 奥行き20cm
重量本体:5.2kg(基本的な本体構成部のみ)
高圧タンク:1.5kg(1.5リットル)(タンクタイプのみ)
アシスト力最大25.5kgf(100Nm)
アシスト部位腰、脚(腰を落として持ち上げる場合)
希望小売価格600,000円(税別)

スタンドアローン(タイトフィット・ソフトフィット)

タイトフィット

ソフトフィット

名称

スタンドアローン

寸法

Fサイズ:幅50cm x 高さ90cm x 奥行き22cm

Sサイズ:幅45cm x 高さ81cm x 奥行き20cm

重量

5.0kg

5.1kg

アシスト力

最大25.5kgf(100Nm)

アシスト部位

腰、および脚(脚のチカラで作業する場合)

希望小売価格

700,000円(税別)

800,000円(税別)

コメント

お名前(ニックネーム):
かいごろう

コメント内容:
重いので30分程度しか装着できませんが、朝の排泄介助時には重宝します。マッスルスーツがなかったときは、前かがみの体勢が続くためとにかく腰への負担が半端なくありました。

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