21名のスタッフで2台をフル活用!マッスルスーツの導入成功事例(友愛十字会・砧ホーム)

「医療の世界では新しい道具がどんどん試される。介護も専門職として、新しい技術や方法を取り組むべきだと思っている」。そう話すのは、特別養護老人ホームの砧(きぬた)ホーム(社会福祉法人友愛十字会)施設長であり、看護師でもある鈴木健太氏です。
砧ホームは、ロボスーツや見守りロボットなど、さまざまな最先端機器を導入している先進的な特別養護老人ホームのひとつ。
平成28年度には、東京都のロボット介護機器・福祉用具活用支援モデル事業のモデル施設にも選ばれています。
モデル施設として、さまざまな介護ロボットを積極的に模索してきましたが、今回導入を決めたのは、ロボットスーツとして有名なイノフィスの「マッスルスーツ」です。ロボットスーツは、介助者の負担を軽減するといわれる反面、装着の手間や扱いづらさから、導入しても持ち腐れになりがちと言われることも。
砧ホームでは、そんなマッスルスーツを上手く活用し、腰の負担軽減やスタッフの一体感アップにつなげることに成功してます。
今回は、マッスルスーツを選んだ理由、スタッフに機器を定着させるために工夫したこと、具体的な運用方法など、持続的に介護ロボットを活用するための秘訣を聞いてきました。
インタビュー協力:主任介護職員・山口公司氏(左)、
サブリーダー・三浦好顕氏(中央)、施設長・鈴木健太氏(右)
導入前|独自で勉強会を実施、都のモデル施設へ
鈴木氏:
当施設では「3つの愛」という方針のもと、「学び愛」「讃え愛」「成長し愛」を大切にしています。そのなかでも、「学び愛(=学び合い)」として、”新しいものに挑戦する”ということを意識的に行ってきました。
スタッフルームには、施設の方針やミッションを記した掲示物が貼り出されている
そのひとつに、介護ロボットがあります。当施設は平成28年度の東京都のモデル施設になっていますが、その前から、介護ロボットメーカーを招いた勉強会や体験会などを実施していました。
今回、モデル施設となり、本格的に導入をはじめたという流れです。
選定の軸は「使いやすさ」
ーーーでは、具体的な課題があって、介護ロボットの導入を決めたというわけではないんですね。介護ロボットにはさまざまな種類がありますが、そのなかでもなぜ、マッスルスーツを選んだのでしょうか?
鈴木氏:
マッスルスーツの導入を決める前に、さまざまなタイプのロボットを試しました。マッスルスーツ以外のロボットスーツも試しましたね。そうして他製品と比べたとき、イノフィスさんのマッスルスーツは着脱がとても簡単で、取り扱いにも気をつかう必要がないという強みを実感したんです。
今回導入したのは、スタンドアローンという機種で、腰を補助する動力である空気を、使用前に補給(充填)するタイプのものです。マッスルスーツでも、ポンプ式ではなくタンク式の場合はコンプレッサーが必要で、タンクが空になったら空気を補充しなくてはならず、手間が増えてしまいます。また、タンクがある分、重くなるので、ポンプ式が使いやすいですね。
導入したのは、装着者が自分で空気を補充するスタンドアローンタイプだ
現場スタッフにとって使いやすい機器でないと、せっかく導入してもなかなか使われないというのは、介護リフトを導入したときに学習したことでした。だからこそ、使いやすさは何よりも重視しています。
持続的な活用に不可欠な「メーカーとの信頼関係」
ーーーマッスルスーツ導入の決め手は、使いやすさだったんですね。その他に、導入を決める際に注意することはありますか?
鈴木氏:
メーカーの担当者と信頼関係が築けるかどうかは、個人的にとても重要だと考えています。介護ロボットは、導入して終わりではありません。導入してから、さまざまな問題点や疑問点、課題が浮かび上がってきます。だからこそ、それらに向かっていっしょに対応してくれる担当者との出会いは、持続的な活用にとても重要なんです。
導入|3つの工夫で活用を促進
ーーー現場スタッフの方に実際に使ってもらうにあたって、工夫したことや苦労したことはありますか?
細かいものまで数えると無数にありますが、ここでは主に3つにしぼってお話します。
全員で一気に体験
山口氏:
1つめは、スタッフ全員が一気に体験できる機会を設けたことです。
導入してすぐは、メーカーからの助言もあり、まずはリーダー層から4人ずつ、順番にマッスルスーツを体験してもらうことにしていました。
しかし、そのやり方では、なかなか普及が進まなかったのです。その理由として、まだ装着したことのない人が、装着している人の動きや気持ちが理解しづらいからではないかと考えました。
そこで、スタッフ全員が一気に体験できる機会を設けて、ひとまず全員に装着してもらうことにしたんです。
その結果、全員が装着時の動きを実感できるようになったため、装着している人をどうフォローすればよいかも分かるようになりました。たとえば、「マッスルスーツを装着しているときは、あまり早く歩けないんだな。じゃあ装着していないスタッフで、先回りして利用者さんを移動させておこう」といったサポートが、自ずとできるようになってきたのです。
管理表を使った「見える化」
山口氏:
2つめが、いつ、誰が使えるかを決め、それを見える化したことです。
2台のマッスルスーツを廊下の両端にそれぞれ配置。吊るしているポールは点滴スタンドだ
山口氏:
当施設では、現在21名のスタッフが働いていますが、導入したマッスルスーツは2台です。マッスルスーツは常に装着するというタイプの機器ではありませんので、使わないときは定位置である廊下に置いてあります。
管理表の他に、運用ルールをまとめた独自マニュアルも作成
山口氏:
2台あるマッスルスーツをフル活用できるように、誰がいつ使えるかをあらかじめ決めておき、管理表で誰でも確認できるようにしました。また使用回数なども記録し、使用の活性化を狙いました。
着脱の手間を最小限に抑える運用
山口氏:
3つ目が、着脱の手間を最小限に抑える運用方法から試したことです。
モデル事業ということもあり、使用シーンが限定されたのですが、当施設では夜勤帯の排泄介助で使用することに決めました。夜勤帯の排泄介助であれば、マッスルスーツを装着した人と装着していない人が協力し合うことで、マッスルスーツを装着したまま、複数人の排泄介助を行うシーンが作れると考えたからです。
こうした工夫を重ねたことによって、施設内での普及が爆発的に進みました。
運用|21名で2台をフル活用
ーーー現在の具体的な運用方法を教えてください。
鈴木氏:
先ほども申し上げたとおり、モデル事業中は夜勤帯の排泄介助にのみ使用していました。現在はモデル事業が終了したので、それ以外のシーンにも活用しています。
具体的には、2台のマッスルスーツを、定位置である廊下に常時置いておき、それを自由に使っていいという運用にしています。
ここからは、実際に現場でマッスルスーツを活用しているスタッフにバトンタッチしましょう。
排泄介助が主な使用シーン
ーーー三浦さんは、前回の取材でも「マッスル三浦」として登場していただきました。ふだんはどのようにマッスルスーツを活用していますか?
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移乗の様子を見せてもらう。スーツを装着していてもスムーズな動きだ
メーカーからのレクチャーで効果を実感
ーーー管理表を拝見しても、三浦さんの使用頻度がずば抜けて高いですね。なぜマッスルスーツをこれほど使いこなすようになったのでしょうか?
赤枠内が三浦さんの利用回数。4月は100回を超えている。0回のスタッフがいるのは、「サイズが合わなくて使いたくても使えないから」だそう
三浦氏:
効果を身にしみて実感したからですね。私はもともと(腰椎椎間板)ヘルニア持ちですが、マッスルスーツを使うと明らかに身体が楽なんです。
とはいえ、はじめからマッスルスーツを大歓迎していたというわけではありません。自分がマッスルスーツを体験するまで、他の人が装着しているのを見ながら、「大変そうだなあ、ちょっと面倒くさいな」と思っていました(笑)。
しかし、実際にメーカーの方にレクチャーしてもらったら、「これはすごいぞ」と。そこから少しずつ使い始めて、いつの間にか”マッスル三浦”に仕立て上げられたという感じですね(笑)。
「小さな使いにくさ」を放置しない
ーーー実際に現場で使用していて、困ったことやトラブルが発生したことはありますか?
三浦氏:
使い勝手という面では、小さな問題がいくつかありましたね。
たとえば、我々はふだんナースコールやスマホをズボンのポケットにいれているのですが、マッスルスーツを装着するとそれが取り出せなくなってしまうんです。ですから、100均でポーチを買ってきて、マッスルスーツに外付けしてポケットとして使うことにしました。
布製のペットボトルホルダーをくくりつけ、ナースコールなどをいれるポケットとして使う
三浦氏:
ほかにも、空気を送るポンプがずれ落ちやすかったので、ポンプに輪ゴムをまいて摩擦をおこすことでズレ落ちを防止しましたね。
ずれ落ちやすいポンプには輪ゴムが巻かれている
三浦氏:
ひとつひとつは小さなことなのですが、実際に使ってみると積み重なって大きなストレスになります。
少しでも「使いにくい」と感じたら、スタッフ全員ですぐ解決策を考えるようにしてきました。
そのために月に2回、「ロボット推進会議」という会議を行っています。使いにくさをほったらかしにしないよう、そのつど改善をくりかえしているのが当施設ならではでしょう。
効果|成功体験が次への強みに
ーーー導入前後で、どのような変化がありましたか?
腰の負担軽減を実感
三浦氏:
一番大きい変化は、身体が楽になったことですね。とくに腰痛持ちのスタッフにとっては、無くてはならないものになってきています。
役割分担が明確化し業務効率がアップ
三浦氏:
もう1つは、現場スタッフの動きが自然と変わってきたことです。私がマッスルスーツを装着していると、周りのスタッフが先回りして利用者さんをベッドに誘導してくれたり、横にしてくれたりして、私がベッド上での排泄介助に専念できる環境を整えてくれるようになりました。
これは、業務効率化にもつながっていると感じています。
スタッフのモチベーションが向上
山口氏:
その他の変化としては、スタッフのモチベーションがあがり、組織が活性化したことが挙げられます。「マッスル三浦」を筆頭に看板スタッフが誕生したり、そのスタッフに影響を受けてみんなでマッスルスーツをうまく活用していこうという雰囲気ができてきたのは、今後も大きな強みになると思っています。
課題・問題点
ーーーありがとうございます。逆に、デメリットはありますか?
鈴木氏:
サイズ感は課題ですね。当施設ではフリーサイズを2台購入したのですが、小柄なスタッフにはフィットせず、使いたいのに使えないスタッフが数名出てしまいました。
1台の機器でさまざまな体型の方が使えるようなカスタマイズができれば、より有効活用できるのになと思いますね。Sサイズを展開しているようなので、次回購入するならそちらを購入するでしょう。
まとめ
鈴木氏:
当施設の介護職員は、非常勤のスタッフも含めて、全員が介護福祉士です。国家資格をもつ専門職として、介護に新しいものを取り入れようという姿勢が根付いています。
また、当施設の方針として「協働原理」を掲げており、介護職を中心として、みんなで協力していこうという文化もあります。
だからこそ、マッスルスーツのような介護ロボットを導入しても、みんなでうまく活用していくことができているのだと自負しています。
<取材協力> |
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